相続税と贈与税の違いとは?司法書士が解説
相続税と贈与税は、財産の移転に関わる税金です。これらの税金の違いや適用される状況について、わからない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、
- 相続税と贈与税の基本的な違い
- それぞれの計算方法
について、司法書士の視点から説明します:
相続税と贈与税の基本
相続税と贈与税は、どちらも財産の移転に伴って課される税金ですが、その性質と適用される状況に違いがあります。
- 相続税:亡くなった人(被相続人)から相続人への財産移転に対して課税
- 贈与税:生きている人の間で行われる財産の贈与に対して課税
これらの税金の基本的な違いを理解すると、効果的な資産管理や相続対策ができます。
相続税と贈与税の違い
相続税と贈与税の最も大きな違いは、課税のタイミングです。
- 相続税:人が亡くなった時点で発生
- 贈与税:生きている人から人へ財産が移転する際に発生
この違いは、税金の計算方法や適用される税率にも影響します。
相続税の場合:
- 被相続人の全財産を合算して課税価格を算出
- 基礎控除額を差し引く
- 税額を計算
贈与税の場合:
- その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与された財産の価額の合計に対して課税
- 特別控除や配偶者控除など、様々な控除制度あり
相続税と贈与税の計算方法
相続税の計算方法:
- 課税価格の合計額を算出
- 相続財産の価額
- 相続時精算課税適用財産の価額
- 生前贈与加算額
- 基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を差し引く
- 相続税の総額を計算
- 各相続人の算出税額を計算
贈与税の計算方法:
- その年の1月1日から12月31日までに贈与を受けた財産の価額の合計を算出
- 基礎控除額(年間110万円)を差し引く
- 税率を適用して税額を計算
これらの計算方法の違いにより、相続税と贈与税では同じ価値の財産でも異なる税額になることがあります。
相続税のポイント
相続税は、亡くなった人の財産を相続した際に課される税金です。相続税の課税対象や申告手続きについて正しく理解することで、スムーズな相続手続きができます。
相続税の課税対象と非課税対象
相続税の課税対象となる財産:
- 不動産(土地、建物)
- 預貯金、株式、債券などの金融資産
- 自動車、貴金属、美術品などの動産
- 生命保険金(亡くなった人が保険料を払っていた場合)
- 退職金(亡くなった人の死亡により支給される場合)
相続税の非課税対象となる財産:
- 墓地、仏壇、祭具等
- 相続人が相続により受け取った生命保険金のうち、500万円 × 法定相続人の数に相当する金額
- 相続人が相続により受け取った退職手当金等のうち、500万円 × 法定相続人の数に相当する金額
これらの課税対象と非課税対象を正確に把握することで、適切な相続税の計算ができます。
相続税申告書の提出期限
相続税の申告は、原則として相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。具体的には以下の手順で進めます:
- 相続財産の把握と評価
- 相続人の確定
- 遺産分割協議
- 相続税の計算
- 申告書の作成と提出
- 納税
申告期限を過ぎると、延滞税が課されたり、加算税が課されたりする可能性があるため、期限を守ることが大切です。
相続税の申告は複雑な手続きを要するため、専門家(税理士や司法書士)に相談するのがよいでしょう。
贈与税のポイント
贈与税は、個人から贈与を受けた際に課される税金です。相続税と異なり、生きている人の間の財産移転に対して課税されるため、相続対策や資産移転の手段として使われることがあります。
贈与税の課税価格と非課税価格
贈与税の課税価格:その年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計から、基礎控除額(年間110万円)を差し引いた金額
非課税となる贈与:
- 扶養義務者間の生活費や教育費の贈与
- 医療費の支払いのための贈与
- 結婚・子育て資金の一括贈与(1,000万円まで)
- 教育資金の一括贈与(1,500万円まで)
- 直系尊属から住宅取得等資金の贈与(最大3,000万円まで)
これらの非課税贈与を活用することで、贈与税の負担を減らしつつ、効果的な資産移転ができます。
贈与税の計算方法と税額
贈与税の計算方法:
- その年の1月1日から12月31日までに贈与を受けた財産の価額の合計を算出
- 基礎控除額(年間110万円)を差し引く
- 税率を適用して税額を計算
贈与税の税率は、課税価格に応じて10%から55%まで段階的に設定されています。例えば、課税価格が300万円の場合、税率は15%となります。
また、贈与税には「配偶者控除」という特例があり、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産等を贈与する場合、2,000万円まで非課税となります。
贈与税の特別控除と節税方法
贈与税には、様々な特別控除や節税方法があります。主なものとしては以下があります:
- 暦年贈与:毎年110万円までの贈与を非課税で行う方法
- 相続時精算課税制度:2,500万円までの贈与を非課税とし、相続時に精算する方法
- 教育資金の一括贈与:1,500万円までの教育資金の贈与を非課税とする制度
- 結婚・子育て資金の一括贈与:1,000万円までの結婚・子育て資金の贈与を非課税とする制度
- 住宅取得等資金の贈与:直系尊属からの住宅取得等資金の贈与を最大3,000万円まで非課税とする制度
これらの特別控除や制度を適切に活用することで、贈与税の負担を減らしつつ、効果的な資産移転ができます。ただし、それぞれの制度には適用要件や期限があるため、専門家に相談しながら計画的に行うことが大切です。
税率と控除額の比較
相続税と贈与税は、同じく財産の移転に対して課される税金ですが、その税率と控除額には大きな違いがあります。これらの違いを理解することで、より効果的な資産移転の計画を立てられます。
相続税と贈与税の税率の違い
相続税の税率(法定相続分に応じた金額ごと):
- 1,000万円以下:10%
- 3,000万円以下:15%
- 5,000万円以下:20%
- 1億円以下:30%
- 2億円以下:40%
- 3億円以下:45%
- 6億円以下:50%
- 6億円超:55%
贈与税の税率(暦年課税の場合):
- 200万円以下:10%
- 300万円以下:15%
- 400万円以下:20%
- 600万円以下:30%
- 1,000万円以下:40%
- 1,500万円以下:45%
- 3,000万円以下:50%
- 3,000万円超:55%
これらの税率を比較すると、一般的に贈与税の方が相続税よりも高い税率が適用されることがわかります。これは、生前贈与による課税逃れを防ぐためです。
ただし、贈与税には「相続時精算課税制度」という特例があり、この制度を選択すると、2,500万円までの贈与を非課税とし、相続時に相続財産と合算して相続税を計算できます。この制度を活用することで、場合によっては税負担を減らせる可能性があります。
また、控除額についても大きな違いがあります。相続税の基礎控除額は「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」となっていますが、贈与税の基礎控除額は年間110万円です。
これらの税率と控除額の違いを考慮し、個々の状況に応じて最適な資産移転の方法を選ぶことが大切です。ただし、税制は複雑で頻繁に変更されるため、最新の情報を確認し、必要に応じて専門家(税理士や司法書士)に相談するのがよいでしょう。
まとめ
相続税と贈与税は、財産の移転に関わる税金です。両者には以下のような主な違いがあります:
- 課税のタイミング:
- 相続税は人が亡くなった時
- 贈与税は生前の財産移転時
- 税率:贈与税の方が一般的に高い
- 基礎控除額:相続税の方が高い
これらの違いを理解し、適切な方法を選ぶことで、効果的な資産移転ができます。ただし、税制は複雑で変更も多いため、専門家に相談しながら進めることをお勧めします。